
目次
マーケティング施策に取り組んでいるが、顧客がなぜ次に進まないのか、どこで判断を止めているのかが見えない。
この状態で共通しているのは、施策そのものではなく「施策同士のつながり」が設計されていないという点です。
多くの場合、その原因は カスタマージャーニーが設計されていない、もしくは形骸化していること にあります。
カスタマージャーニーとは、単なる図や資料ではありません。
顧客が課題を認識し、情報を集め、比較・納得し、最終的に意思決定に至るまでの“思考と行動のプロセスそのもの”です。
今回はこれらを事業全体の視点から整理します。
- カスタマージャーニーの本質
- BtoBとBtoCにおける構造的な違い
- 実務で使える設計手順と具体例
カスタマージャーニーは何のために必要なのか
施策を“正しく失敗させる”ために必要
カスタマージャーニーの最大の役割は、マーケティングや営業施策を、正しい前提で評価・改善できる状態をつくることです。
ジャーニーがない組織では、次のようなことが頻発します。
- 広告のCPAが悪い → 広告が悪いと判断する
- CVRが低い → LPを改善しようとする
- 商談化しない → 営業の問題だと考える
しかし実際には、“前段階の詰まり”が原因であるケースがほとんどです。
- 顧客の課題認識が浅い
- 比較フェーズの情報が不足している
- 意思決定を後押しする材料が欠けている
カスタマージャーニーは、「どこで失敗しているのか」「なぜ次に進まないのか」を構造的に特定するための設計図です。
カスタマージャーニーとは何か
カスタマージャーニーの本質は「意思決定の流れ」
カスタマージャーニーは、「顧客がどのような感情・思考を経て、最終的な選択に至るか」を可視化するフレームです。
多くのユーザーは以下のような流れをたどります。
- 課題に気づく
- 情報を集める
- 選択肢を比較する
- 自分に合うと納得する
- 行動(購入・問い合わせ)する
- 継続・紹介する
ここで重要なのは、この順序や滞在時間は、企業側がコントロールできないという点です。
企業ができるのは、「その段階にいる顧客に対して、適切な情報と体験を用意すること」だけです。
また、ジャニーにおいて重要なのは、順番そのものではありません。
ジャーニー設計とは、顧客の意思決定を操作することではなく、意思決定を“前に進める環境”を整えることと言えます。
重要なのは思考の中身です。
- 各段階で「何が分からないのか」
- どんな不安が意思決定を止めているのか
- 次に進むための“判断材料”は何か
よくある誤解:「ジャーニー = タッチポイント一覧」
実務で非常によく見られる誤りが、「広告 → LP → 問い合わせ → 商談」といった接点の整理で終わっているケースです。
これは“企業の行動フロー”であり、顧客の意思決定プロセスではありません。
実際の顧客の頭の中では、その間に次のような思考が発生しています。
- 本当に自分の課題なのか
- 他にもっと良い選択肢はないか
- 失敗したらどうなるのか
- なぜこの会社を選ぶ必要があるのか
ジャーニー設計で見るべきなのは、心理の変化と判断基準です。
- その時、顧客は何を不安に感じているか
- 何が分からずに止まっているか
- 何が分かれば次に進めるのか
「どこを改善すべきか」「どの施策を優先すべきか」を判断できるように、行動ではなく意思決定を軸にする必要があります。
BtoBとBtoCにおけるカスタマージャーニーの違い
BtoC:意思決定は“感情の納得”で完了
BtoCでは、意思決定において以下の特徴があります。
- 個人の感情・直感が強く影響する
- 比較検討期間が短い
- 価格・口コミ・使用イメージが重視される
- 購入後の満足度が次の行動(再購入・紹介)に直結する
そのためBtoCのジャーニーでは、論理的な説明よりも 「なんとなく良さそう」「失敗しなさそう」 という感覚が重要になります。
この結果、BtoCでは「共感 → 納得 → 安心」という感情の流れを意識した設計が不可欠です。
逆に、情報量が多すぎると「考えるのが面倒」「決めきれない」という理由で離脱が起こります。
BtoCジャーニーで重要なポイント
- 共感できるか
- 自分ごととして想像できるか
- 失敗しないと感じられるか
NGな状態
- 情報が多すぎる
- 比較軸が複雑
- 判断を顧客に委ねすぎる
BtoCのジャーニーは、考えさせない設計が正解になります。
BtoB:意思決定は“説明できた時点”で完了
BtoBでは、「自分が納得した」だけでは意思決定は完了しません。
このような視点が必ず入ります。
- 上司に説明できるか
- 稟議を通せるか
- 失敗した時に責任を取れるか
このためBtoBでは、「説明可能性」がジャーニー設計の中核になります。
ジャーニーにおいて、顧客自身が“社内で説得する立場になる” という前提を忘れてはいけません。
- 課題がどのように解決されるのか
- 導入効果は定量的に説明できるか
- リスクや失敗時の対応はどうなっているか
- 社内で説明・合意が取れるか
BtoBジャーニーでNGなのは、このような状態です。
- ベネフィットだけを語る
- 導入後の話がない
- リスクの説明が曖昧
BtoBでは、「この選択は合理的である」と説明できる状態をつくることがゴールになります。
BtoB・BtoCの比較表
項目 | BtoC | BtoB |
関与人数 | 基本1人 | 現場・上司・決裁者 |
重視される要素 | 共感・安心感・口コミ | 効果・コスト・リスク |
NGな状態 | 情報過多・比較軸が多い | 説明材料が不足している |
有効な情報 | 体験談・使用イメージ | 事例・数値・導入プロセス |
意思決定完了の条件 | 「失敗しなさそう」 | 「社内で説明できる」 |
ジャーニー設計のゴール | 考えさせずに決断させる | 説明できる状態を作る |
カスタマージャーニー設計の基本ステップ
顧客の「最初のきっかけ」を定義する
まず必要なのは、顧客が動き出す起点の明確化です。
- どんな状況で課題を感じるのか
- その課題はどの言葉で認識されるのか
- 緊急度は高いのか、低いのか
この「課題の言語化」がズレていると、どれだけ良い施策を打っても刺さりません。
特に注意すべきなのは、企業が使っている言葉と、顧客が使っている言葉が違うケースです。
フェーズごとの心理と障壁を書き出す
次に、意思決定の各フェーズごとに以下を整理します。
- 顧客の疑問
- 不安・懸念
- 比較ポイント
- 行動を止めている要因
ここで重要なのは、「企業が伝えたいこと」ではなく「顧客が次に進むために必要なこと」だけを書くことです。
この整理が甘いと、説明はしているが刺さらない・情報はあるが行動されないという状態に陥ります。
情報と施策をジャーニーに紐づける
最後に、各フェーズに対して以下を整理します。
- どんな情報が必要か
- どのチャネルが適切か
- 次の行動を促すために何が必要か
この段階で多くの企業は、「今やっている施策が、どのフェーズにも明確に紐づいていない」という事実に気づきます。
ジャーニーは、施策の棚卸しと優先順位付けのためのフレームでもあります。
ポイントは「意思決定の完了条件」を決めること
正しいカスタマージャーニーでは、各フェーズに必ず次の3点を定義します。
- 顧客が判断するための問い
- その問いに対する答え
- 次に進める“納得条件”
これが定義されていないジャーニーは、施策設計にも改善にも使えません。
機能しないジャーニーの問題は、「このジャーニーを満たせば意思決定が完了する」という定義がないことです。
つまり「この状態になったら次に進む」という基準が曖昧であるケースが多いです。
実例で見るカスタマージャーニー設計
BtoCの例:D2Cプロダクト
課題認識
自分に合っているか分からない、失敗したくないという不安
情報収集 「自分に合っているか分からない」
- SNSの体験談
- 使用シーンの具体的イメージ
- 口コミ・レビュー
比較検討 「他と何が違うのか」
- 価格
- 他商品との違い
- 自分に合う理由
意思決定 「失敗しないか」
- 「これなら大丈夫そう」という安心感
BtoCでは、論理よりも 自分ごととして想像できるかどうか が決定打になります。
BtoBの例:業務SaaS導入
課題認識
業務効率が悪いと感じているが、原因が特定できていない
情報収集 「他社はどうしているのか」
- 同業他社の成功・失敗事例
- 課題整理の記事
- 現状を客観視できるチェックリスト
比較検討 「なぜこのツールなのか」
- 導入効果(定量・定性)
- コスト構造
- サポート体制・導入後の運用負荷
意思決定 「社内で説明できるか」
- 社内説明資料として使える情報が揃っている
- 導入後のリスクが低いと判断できる
この場合、「資料請求」自体がゴールではなく、社内稟議を通すための材料提供が本質です。
ジャーニーが機能しない原因
- 一度作って更新されていない
- 組織で共有されていない
- 施策と連動していない
- KPIと結びついていない
カスタマージャーニーは、施策を評価・改善するための“判断基準”として使われて初めて意味を持ちます。
さいごに
カスタマージャーニーは、「マーケティング施策を整えるための資料」ではありません。
それは、顧客視点で事業全体を設計するための思考フレームです。
- なぜ顧客は次に進まないのか
- どこで意思決定が止まっているのか
- 今やるべき施策は何か
これらを感覚ではなく構造で判断するために必要です。
BtoB・BtoCを問わず成果が出ている企業ほど、顧客の意思決定プロセスを深く理解し、施策をジャーニーに沿って整理できており、組織全体でその前提を共有しています。
施策が増えるほど成果が見えづらくなっている場合こそ、一度立ち返って「顧客はどんな流れで、何を基準に選んでいるのか」を見直すことが重要です。
本記事が実務に活かすことのできるカスタマージャーニー設計の指針になれば幸いです。